徳について

徳について

解説

道徳経の名が示す通り、徳は道に続いて重要な概念だ。特に関連する章をピックアップして徳の姿をさぐってみた。
徳とは一般的には人の奥ゆかしい心や行いをいう。これらの徳は徳者のふるまいを例にあげれば、日常で見ていることもあってすぐに理解できるはず。

一般的な徳とはこういうことだ。

・徳が備わっているのに徳はないと控える第三十八章
・さりげない働きかけで助けて知らぬふりをする第三十八章
・怨まれたら仕返しするのではなく優しくする第六十三章
・約束を取り交わしたら相手を信じて黙って待つ第七十九章
・悪人にも善意はあると信じてやる第四十九章

徳がないとはこういうことだ。

・徳を失うまいと気にかける第三十八章
・見えるように親切にふるまう第三十八章
・約束は約束だと取り立てる第七十九章

では、老子的な徳って何だ?

・道が産んだものを養う第五十一章
・命令も意識もなく自然にはたらく第五十一章

玄徳って何だ?

・道が生んだものを自然に発展させる第五十一章
・発展させた相手に指図しない第五十一章
・人を発展させて指図しない第十章
・深く遠く返った後順序が戻る作用がある第六十五章

玄徳の話は少しややこしいか。徳にも上中下のランクがあり、上徳の上に玄徳があり、そのすぐ上には道があると想像している。徳の真髄は道とほとんど同じだと考えたのだ。
なぜなら、第四十二章には万物が道から発生した様子が描かれているが、この「無→一→二→三」の工程は第五十一章の「道→徳→物→器」と対応しており、この序列に従えば、徳の奥(古い時代)にあるのが道だからだ。
だから、徳は道から生まれて一を二にする存在と考えて違和感はない(徳は道から生まれたとは老子のどこにも書いてないが)。
人間は万物の一員「三」であるが、物であることを意識できれば「二」が見えて、徳を備えれば「一」が見えて、道を得れば「無」が見える。この数字で言えば、玄徳は無に近い一、0.2とかそれくらいだろう。
だから、玄徳については道の神秘を見るのが正解だろう。

徳を何かにたとえるなら。

・赤ちゃんのような不思議な力がある第五十五章
・高い徳とは谷のようにへこんだ器第四十一章
・広い徳は広い谷のよう第四十一章
・しっかしした徳は怠けている第四十一章
・孔の形をしている第二十一章

どうすれば徳が身につくか。

・強く正しく立派になれるのに敢えて弱く悪く賎しい立場でいる第二十八章
・基礎をしっかり固める第五十四章

徳を身につけるとどうなるか。

・余剰が出て国が豊かになる第五十四章
・無敵の力が備わって国を興せる第五十九章
・鬼神とも上手くやっていける第六十章

いつ頃始めるべきか。

・なるべく早く始める第五十九章

徳が身についているかチェックせよ。

・精神を安定させて柔らかく対応する第十章
・自分をしっかり見て自己批判する第十章
・自分の苦労を他人に知られないようにする第十章
・人の話をよく聞く第十章
・なんでも知っていながら知らないふりをして見守る第十章

これができていて、なおかつ人に指図しなければ玄徳といえよう。

玄徳政治はどんな様子か。

・知恵を働かせる統治を知る第六十五章
・知恵に頼らない統治の違いを知る第六十五章
・後者が優れていることを知る第六十五章
・常に知恵を使わないよう意識する第六十五章

つまり、愚民政策となる。愚民政策が何かは聖人の統治にある。なぜ愚民政策かは極と中にある。