マンガ・ギリシャ神話 悲劇の王オイディプス

マンガギリシア神話 (4) 悲劇の王オイディプス (中公文庫)

マンガギリシア神話 (4) 悲劇の王オイディプス (中公文庫)

話の中心は人間社会にシフトしつつあります。神様同士のいざこざは減ってきて、人間社会に神様がちょっかいをかけるエピソードが増えてきます。神話として見るなら物足りない、歴史物語としてみると胡散臭い、そんな中途半端な時代と言えるかもしれません。

うちの娘は「ちょっとつまんない」と正直に申しておりました。確かに登場人物が増えてきて、国同士の関係も複雑になってきているので難しいかもしれません。

そんな中で唯一神話らしいエピソードがエロスとプシュケの結婚です。エロスとはいわゆるキューピットのこと。これまでにも様々な恋を破局させたり成就させてきました。そんな彼が自らを射抜いてしまうとは… 。なんだかんだで二人は両思いになりますが、なにしろ相手は人間です。神様と人間の結婚を許すにはそれなりの試験が必要でしょう。ということで、彼女には「人間では到底クリアできない試練」がいくつも与えられます。プシュケは恋人エロスの助けをひっそりと借りて、すべての課題をクリアし、神の仲間になることを認められます。知ってる「それ古事記で見た」

話が硬すぎるって?いえいえ、そんなことありません。今回もちゃんとサービスタイムはありますよ。またもやアルテミスちゃんの水浴びです。もうここまで来るとしずかちゃんですね。でもアルテミスはしずかちゃんほど優しくありません。見た相手を殺してしまいますから… 。もう一つ、今度はアテナの水浴びシーン。それを見たのはテイレシアス。罰として視力を奪われます。Wikipediaに記載されているエピソードとは少し違うものの、彼のエピソードは取り上げるにふさわしい興味深い内容です。

俺の名前は高校生探偵のテイレシアス。
幼馴染で同級生の毛利蘭と森に遊びへ行って、黒ずくめの蛇が交尾する現場を目撃した。
交尾を見るのに夢中になっていた俺は背後からそれを棒で叩いてしまった…。
俺はその蛇に××され、目が覚めたら…女になってしまっていた!

出ましたよ。男が女の子になっちゃった! ジャンプのエロカテゴリに属するマンガのようなこの展開!

しかし、大変残念なことに女であった期間をどんなふうに暮らしたのかは、正確な伝承がないそうです。そこは自分の想像力で補え、ということでしょうか? 正直そこが一番詳しく知りたいところなのですが… 。

その後、彼は七年間女として暮らした後、再び蛇の交尾に出くわします。以前のことを思い出した。彼は迷わず蛇を棒で叩き、元の男に戻ったとのこと。ある日、彼のもとにゼウスとヘラがやってきます。この夫婦は「男と女でエッチの時どっちが気持ちいいか」で激しく論争していたのでした。決着がつかないので、どちらの性も経験した彼に答えを聞くのです。そこで彼は「女の時の方が十倍良かった」と答えたので論争はゼウスの勝ちとなります。これに納得がいかず腹を立てたヘラに盲目にされてしまいます。それを哀れに思ったゼウスは彼に長寿と予知の能力を与えます。こうして彼は当代一の預言者となるのです。

もう一つ取り上げるべきエピソードはオイディプスの話でしょう。コミックのタイトルにもなっているので当然か… 。心理学で言うエディプスコンプレックスの語源となっているのが彼の名前だそうです。

オイディプスの生い立ちを話にはまず父親のライオスからとなるでしょう。

オイディプスの父親ライオスはホモでした。…いや、これじゃ子供が生まれるわけないですよね。これには訳があります。アポロンの神殿で「男子を設けると殺される」と神託を受けたので、 「男同士なら子供は生まれまい」という理屈で男ばかりの相手にしていたのでした。しかし、そんな彼も酔った勢いで妻とも交わりオイディプスが生まれるのです。当然ライオスは神託を恐れて息子を殺そうとしますが、同情した家臣達に隠まわれ羊飼いに預けられるのです。

この巻は男同士の交わりがふんだんに出てきます。作者の好みだと深読みしてしまいましたが、ギリシャ神話にもこういう話は普通にでてくるようです。

息子が誕生ししまったという事実に恐れをなしたライオスはますます同性愛に走ります。それに怒ったのが結婚の女神ヘラです。結婚しておきながら妻を顧みない罰としてスフィンクスを向かわせます。次々と人間を食い殺す魔獣の登場に国は大混乱に陥ります。

一方その頃、捨てられたオイディプスは他所の国の王子となり、立派な大人に成長していました。しかし、彼をよく思わない連中が「オイディプスは実子では無い」と噂を流したので、不安になったオイディプスは神託を受けるため神殿に向かいます。そこで降りた神託は「祖国に帰ると実父を殺し、実母を犯す」でした。出生の秘密を知らないオイディプスはそれを恐れて国を捨て流浪の旅に出ます。なんという皮肉。父親を殺さないように逃げたつもりが、実父ライオスのもとに向かってしまうとは… 。偶然にも道中で二人は出会います。道を譲るか譲らないかで争いになった末、オイディプスはライオスを殺害します。

王が殺されたというのに大きな騒動にはならないのが不思議ですが、王よりもスフィンクスをどうするかの方がが重要だったのでしょう。そのスフィンクスオイディプスが退治するので、彼は王を殺したにもかかわらず、王位に就くことができます。優れた王であったオイディプスは国を安定させますが、落ち着いたことで前王を殺した犯人探しを始めることになります。

まさか自分が犯人だとは知らないオイディプスは「前王を殺した犯人は目を潰す」と宣言してしまいました。その後犯人は自分だと知ることになり、妻が母親だったことも知ることとなります。ショックで母は自殺、オイディプス王は宣言通り、自分自身を目潰しの刑を執行しました。知らなかったとは言え、オイディプスはタブー(近親相姦)を行ったので、その罪により二人の息子の判断によって追放されます。彼はテイレシアス同様、視力を失ったことで見えざるものを見ることができるようになったため、国の未来を予言します。二人の息子は王位を争うことになる。

皮肉が効いてていいですね。

賢者とは目を潰して視力をなくした人のことを言うのだと、白川静の本にはありました。 「賢」という漢字は目を指で潰して見るという意味らしいですよ。世界は繋がっているんだなぁと感じました。

その後、オイディプスの息子達は予言通りに争います。あまりに争いが激しいので王位を1年ごとに交代するというルールが生まれました。あれ、天皇家にも何年ごとに交代するルールがなかったっけ?人間やる事は大差ないですね。