マンガ・ギリシャ神話 トロイの木馬

トロイの木馬―マンガ・ギリシア神話〈7〉 (中公文庫)

トロイの木馬―マンガ・ギリシア神話〈7〉 (中公文庫)

ついにやって来ましたトロイア戦争。ここまでくれば歴史の世界まであと一歩ですね。

ギリシャ軍の総大将アガメムノンといえば、歴史の教科書では黄金の仮面が掲載されているので立派な王様というイメージでしたが、物語上では器の小さな欲張りな男ということになっています。話の発端は女の取り合いから始まっているので、そうなるのも当然といえますが… 。こいつを中心に話を回しても面白くもなんともないので非業の死を遂げた英雄アキレスが主役となります。

しかしこのアキレウストロイア戦争に参加するきっかけになった話がこれまたなんとも… 。戦争に参加すると命を落とすという予言があったため、母親は女として生きることを要求した。彼の女装は完璧で誰も見に行くことができなかった。しかし、戦争への参加者を探すオデュッセウスに居所を探りあてられ、正体を暴かれてしまう。その手口はこんな感じだ。商人に扮したオデュッセウスは女たちに美しい衣装やアクセサリーを見せた。女たちはドレスに夢中になったがアキレウスはその中に一本だけ紛れ込んだ刀に夢中になってしまった。古代ギリシア人はよほど美しさにこだわりがあったのか、こういう話が多いですよね。まぁそれはともかくオデュッセウスも策士ですよね。どんなに変装しても深層心理だけを隠せない。我々の世代で言えば、リカちゃん人形と着せ替えセットの中にひとつだけガンプラが混じっていたようなものでしょうか。それなら絶対ガンプラですよね(断言)

さて、本番のトロイア戦争ですが、古代中国の逸話とは違ったスタイルも盛りだくさんで、興味は尽きません。なにしろ予言によって勝利条件が与えられます。どこのシュミレーションゲームだよ… 。有名なトロイの木馬は兵隊を城内に送り込むためではなく、勝利条件に設定された「城門を破壊する」ために作ったのですね。それも力ずくで破壊するのではなく、相手側の意志によって自発的に破壊させるという計略だったわけです。計略大好きの古代中国でもこんなエピソードは思い当たりません。

しかし木馬が入りきらないから城門を破壊するとか、あまりにも乱暴な話だよなぁ。普通なら木馬の方を分解して搬入するだろうけど、宗教的な理由からやらなかったんだろうか?

主役とも言うべきアキレウスですが、無双の活躍をした後、唯一の弱点であるアキレス腱に矢を受けて落命します。身も蓋もない言い方をすれば、流れ矢にあたって傷口から感染症引き起こして死んでしまったのでしょう。英雄って案外あっけない死に方をしますよね。三国志にもそんな猛将いましたよね。「死ぬために戦う男」というテーマは英雄にカッコ悪い終わり方をさせない配慮というべきかもしれません。この無双ぶりといい功績を認められずに拗ねるとこら辺は項羽の姿と被ります。もっとも、彼が項羽であったらアガメムノンごときでは制御不能でしょうけど。

もう一つ気になる存在がカサンドラです。この時代、女性といえば霊感が強く、預言者として重宝されていたはずなのに彼女の予言は何一つ受け入れられません。それだけ戦争がヒートアップして余裕をなくしていたといったところでしょうか。実のところ、この時代の人ですら既に予言なんてこれっぽっちもしていなかったと想像しても別段違和感はありません。もっとも、彼女の予言を無視したがためにトロイアは滅亡してしまうわけですが。