聖人の統治

聖人の統治

解説

聖人は上手に天下をまとめる人である。では、どうやってまとめるのか。老子に出てくる統治関連の話題をざっと集めてみたが、少々一貫性がない。解釈に悩むが、聖人を目指す人の生き方には二種類あると考えてみた。詳しくは極と中の最後の方に道と徳の違いとして書いたが、統治面で言うならば帝道と王道みたいなものではないか。
そこで、聖人の統治法を二つにわけてまとめてみた。

聖人見習いレベルの国王の段階では次のようにする。

知恵に頼らない第十九章
仁義を押し付けない第十九章
技巧を凝らして利益を追求しない第十九章
素直に素朴に欲張らないで生きる第十九章
みんなが慕ってついてきても主人とならない第三十二章
素朴に生きて、できるだけ何もしない第三十七章
成果を数えない第三十九章
平凡な姿で生きる第三十九章
頑固な乱暴者にならない第四十二章
へりくだる第四十二章
欲しがる姿を見せない第四十六章
欲しがらない第四十六章
現状に満足する第四十六章
へりくだる第六十一章
小国は頭を下げて仕えて守ってもらう第六十一章
大国は頭を下げて仲間になってもらう第六十一章
へりくだる第六十六章
後ろに回る第六十六章
争わない第六十六章
押してもらう第六十六章
生きてるだけで満足する第七十五章
強欲に生きようとはしない第七十五章

道者の天下取りと共通する部分もあるか。

こっから聖人レベル

聖人による民の統治法は「無知無欲」にする愚民政策。それは第六十五章第三章にはっきりと書かれている。

・頭を空っぽにしてバカ正直にする第六十五章
・心を空っぽにして腹を一杯にする第三章
・向上心をなくして身体を強くする第三章

一度老子を理解した人なら、これだけあれば政治思想を充分に示せていることがわかるが、やはり言葉が足りない。
それを実現するためにはどうするかを書く必要があるだろう。大筋では聖人がバカなふりをして人をバカに染めていくのだ。

・賢い人を優遇しない第三章
・高価な物をありがたがらない第三章
・理想的な姿を知らせない第三章
・無知無欲な姿を見せる第三章
・知恵の政治と無知の政治を知る第六十五章
・強いのに敢えて弱い者を守る第二十八章
・正しいのに敢えて悪い者を守る第二十八章
・高貴なのに敢えて賎しい扱いを受ける第二十八章

民は愚かにするが自分は賢くあるという狡猾な政治が第六十五章に垣間見えるが、他の章と合わせれば自分も愚かになってバカ正直に生きる手本となるのだと考えているのがわかる。良いモノを知ってしまうと差がついて、そこから負の感情が生まれてしまうものだ。善悪は優劣を言い換えただけで、優が譲ってやれば悪はいなくなるのだ。

・善人は悪人の手本になれる第二十七章
・悪人は善人になれる第二十七章
・善悪をはっきりさせない第四十九章
・善人は尊敬してもらえる第六十二章
・悪人は庇ってもらえる第六十二章
・悪いことをしても罰しない第七十四章

だから、バカになって弱い者に合わせてやる。老子にはそういった平等思想がある。つまり、ものごとを階級で分けて秩序を作るよりも平等にして落ち着けた方が治まると考えたようだ。

・公平になるよう調節する第六十三章
・公平に愛してゆっくり混ぜる第四十九章
・無理な和解はしない第七十九章
・無理な約束は催促しない第七十九章

だから、聖人は民との付き合いでは無為・無事・無欲の放任主義になるようだ。民の自立心を促して自治させる。これを続けると聖人に感化されて民に変化が起きる。

・抜け目ない政治は避ける第五十八章
・よくわからないもやもやした政治をする第五十八章
・特に大国は政策をいじりまわさない第六十章
・民を信じて任せる第十七章
・うるさい口出しはしない第十七章
・民の話をよく聞く第十章
・民の行動を見ながら黙って見守る第十章
・自分から無為になろうと変わっていく第五十七章
・自分から正しい道に進んでいく第五十七章
・自分から豊かな生き方を覚えていく第五十七章
・自分から無欲で素朴になっていく第五十七章

その結果、民からはこんな支配者に見えて、民は自立を自覚する。

・存在を知っているものの具体的な成果は何も知らない第十七章

これが第六十三章の「無為」である。しかしながら、けっして愚鈍ではない。その真意はこうである。

・平凡から危機を嗅ぎとる第六十三章
・トラブルは未然に防ぐ第六十三章
・問題を安易には考えない第六十三章
・民を愛して骨を折っても苦労は見せない第十章

こんな聖人の自己統治法はこうである。

・自分の行動に間違いないか自己批判する第十章
・自分に間違いがないかチェックする第七十二章
・心を空っぽにする第五章
・動かない第五章
・軽率な行動は慎む第二十六章
・しゃべりすぎない第五章
・中立でいる第五章
・安全な場所にいる第二十六章
・補給を優先する第二十六章
・自慢しない第七十二章
・自分を愛する第七十二章
・天下を自分の身のように愛して大切にする第十三章
・国の不幸や不始末を引き受ける第七十八章
・尊敬してもらおうとは考えない第七十二章

影響力の強さを自覚していれば動き回ることが民の負担になることくらいはわかる。できるだけ無気力無関心を装いながらも、肝心なところではこっそりと遠回しに働きかけて手柄はすべて他人に譲るわけだ。

これが聖人の姿である。

ちなみに老子の理想とする国家が第八十章にある。聖人の政治ではないので上記のまとめには組み込まなかったが、参考までに取り上げておきたい。

・小さくて人が少ない
・有能な人を起用しない
・便利な道具を使わない
・民を危険に晒さない
・質素に