第九章 揣えて之を鋭くするは、長く保つ可からず。

原文

持而盈之、不如其已。揣而鋭之、不可長保。金玉滿堂、莫之能守。富貴而驕、自遺其咎。
功成名遂身退、天之道。

訓み下し文

()して(これ)()たすは、()()むに()かず。
(きた)えて(これ)(するど)くするは、(なが)()()からず。
金玉(きんぎょく)(どう)()つるは、(これ)()(まも)ること()し。
富貴(ふうき)にして(おご)るは、(おのず)から()(とが)(のこ)す。
(こう)()()()げて()退(しりぞ)くは、(てん)(みち)なり。

解釈

持っているのにさらに得ようとするのは、破滅してるようなものだ。
研いであるものを鋭くしようとすれば、長持ちしない。
蔵を金品でいっぱいにしても、維持できない。
金持ちになってさらに驕るのは、自分で罪の元を作ることになる。

成功して名誉を得たら身を引くのが自然の流れである。

備考

引き際を説いた章。引退することだけが仕事を完成させる最後の一歩。これを忘れると老子には腑に落ちない章がたくさんできてしまう。

世の中の失敗は、成功に味をしめてやりすぎて起きる。

ヒント


富貴(ふうき)

富があり地位も高いこと。


(のみ|や-む)

〜だけ。
やめる。終わる。「やむを得ず」のやむ。

(エイ|み-ちる)

みちる。みたす。

(きた-える)

端の字でしょう。

(おご-る)

尊大にふるまう。態度が大きい。

(とが-める)

過失。過ち。

熟語(2種/2回)

天之道 富貴

ルビ無版下し文(コピペ用)

持して之を盈たすは、其の已むに如かず。
揣えて之を鋭くするは、長く保つ可からず。
金玉堂に満つるは、之を能く守ること莫し。
富貴にして驕るは、自から其の咎を遺す。
功成り名遂げて身退くは、天の道なり。