第七十五章 民の飢うるは、其上の税を食むことの多きを以てなり。

原文

民之飢、以其上食税之多。是以飢。
民之難治、以其上之有爲。是以難治。
民之輕死、以其上求生之厚。是以輕死。
夫唯無以生爲者、是賢於貴生。

訓み下し文

(たみ)()うるは、(その)(かみ)(ぜい)()むことの(おお)きを(もっ)てなり。(これ)(もっ)()う。
(たみ)(おさ)(がた)きは、(その)(かみ)()すこと()るを(もっ)てなり。(これ)(もっ)(おさ)(がた)し。
(たみ)()(かろ)んずるは、(その)(かみ)(せい)(もと)むることの(あつ)きを(もっ)てなり。(これ)(もっ)()(かろ)んず。
()(ただ)(せい)(もっ)()すこと()(もの)は、(これ)(せい)(たっと)ぶより(まさ)る。

解釈

国民が飢餓になるのは、お上が重い税をかけるからだ。これが飢餓の実態だ。
国民が素直に納税しないのは、お上が何かと理屈をつけて税の負担をかけるからだ。これが脱税の実態だ。
国民があっけなく死んでしまうのは、お上が自己保身を強く求めるからだ。これが国民が簡単に死ぬ原因だ。

今生きているならそれでいいやと何もしないでいられる人は、命の大切さを最もよく知っている賢者だ。

備考

諸問題をすべて政府の責任にしてしまうのは、何かタチの悪い左翼っぽい。

しかし、理屈はわかる。
お上が仕事をすると様々な税制度が設けられる。税といってもお金を収めるだけではなく、兵役などの労働負担もある。それで、百姓は本業の農業ができないばかりか、わずかな収穫さえ税で取られてしまう。民にもメリットがあるからこそ、納税の気持ちが起きるのであって、不必要に徴収されれば誰だって脱税したくなる。
よって、飢餓に発展するという流れだが、軽く死ぬ原因は戦争にもあるだろう。王を守るために戦って死ぬのである。

対処法として、「むやみに生きようとしないこと」だと提案している。これは贅沢をしたり、高貴な身分を維持するのに必死にならないということ。
もちろん、「防備しなければ国が滅ぶじゃないか」というだろうが、そんな時には第六十一章だろう。信じないものは信じてもらえない。そんな論法、現代ですら笑われるだろうけど。

ヒント


(あつ-い)

中心部。立場が頑丈で安全なところ。

(う-える)

貧困からくる飢餓。

(ぜい)

税金。もちろん、当時は金でなく農産物や兵役。

熟語(1種/3回)

是以

ルビ無版下し文(コピペ用)

民の飢うるは、其上の税を食むことの多きを以てなり。是を以て飢う。
民の治め難きは、其上の為すこと有るを以てなり。是を以て治め難し。
民の死を軽んずるは、其上の生を求むることの厚きを以てなり。是を以て死を軽んず。
夫れ唯生を以て為すこと無き者は、是生を貴ぶより賢る。