第十二章 五色は人の目をして盲なら令む。
原文
五色令人目盲。五音令人耳聾。五味令人口爽。
馳騁田獵、令人心發狂。難得之貨、令人行妨。
是以聖人、爲腹不爲目。故去彼取此。
訓み下し文
五色は人の目をして盲なら令む。五音は人の耳をして聾なら令む。
五味は人の口をして爽わ令む。馳騁畋猟は人の心をして狂を発せ令むる。
得難きの貨は、人の行いを妨げ令む。
是を以って聖人は、腹を為して目を為さず。故に彼れを去てて此れを取る。
解釈
あふれかえるほどの色は人の目を潰す。あちこちからの音は人の耳を聞こえなくする。たくさんの味は人の味覚を麻痺させる。
乗馬や狩りは人の心をおかしくさせる。高価な金品は人の正しい行いを妨げる。
だから、聖人は心の充足を考え、うわべの楽しみに目を奪われない。よって、あれではなく、これを取る。
備考
贅沢に夢中になって人の心を忘れた王侯貴族を批判しているんだろう。ただ、日常生活に置き換えても実感できる例もあるので、共感はしやすい。第三十五章では、感覚による刺激は際限がなく、正しい道は味がないとある。
五
おそらく日本でいう八みたいに「たくさん」の意味だろう。
五色令人目盲
選択肢が多すぎると選べないことは往々にあり、それは色がないのと変わらないと言いたいのだろう。それと同時にあでやかな色に包まれて民の生活を見なくなった王族を批判している。五行説の色だろうか。赤・青・黄・白・黒
五音令人耳聾
あちこちから音が聞こえるとうるさくて聞き取れない。それと同時に貴族が音楽に夢中になって、肝心な民の声が聞こえていないことへの批判。中国音楽で五音とは音階のことで、宮・商・角・徴・羽をいうらしい。
五味令人口爽
おいしいものを出鱈目に混ぜ合わせてもおいしくない。それと同時に音楽同様、美食にふける有力者たちへの批判。味覚で言えば酸・苦・甘・辛・鹹。
馳騁田獵、令人心發狂。
狩りは娯楽を兼ねた戦争の予行練習。兵を動員することに慣れると獲物と人の区別がつかなくなって軽い気持ちで戦争を始めてしまう。ましてや、威勢を張るために大金をかけてこれを行うならば、狂っているのと大差ない。
爲腹不爲目
目はもちろん上辺のこと。腹は中身のこと。
ヒント
馳騁(ちてい)
馬にまたがって走りまわること。
田獵(でんろう)
狩り。
当時の狩りは王侯貴族のステータス的なもので、国の主はこぞって夢中になった。
腹(はら)
心。心根。肝っ玉。
令(し-む|れい)
させる。令A(名詞)B(動詞)のとき、AをしてBしむ。AにBさせる。
命令。
ルビ無版下し文(コピペ用)
五色は人の目をして盲なら令む。五音は人の耳をして聾なら令む。
五味は人の口をして爽わ令む。馳騁畋猟は人の心をして狂を発せ令むる。
得難きの貨は、人の行いを妨げ令む。
是を以って聖人は、腹を為して目を為さず。故に彼れを去てて此れを取る。
五味は人の口をして爽わ令む。馳騁畋猟は人の心をして狂を発せ令むる。
得難きの貨は、人の行いを妨げ令む。
是を以って聖人は、腹を為して目を為さず。故に彼れを去てて此れを取る。