なぜ悪の組織は失敗した幹部を処刑するのか

何年か前の話です。子供の付き合いでプリキュアを見ていました。その話では悪の組織のリーダーがプリキュア討伐に失敗した幹部を処刑していました。

この「失敗した幹部を処分する」という演出は子供の頃からあったように思います。子供に悪の恐ろしさを教える手っ取り早い演出ではありますね。これは日本のアニメ特有の演出なのかなとも考えましたが、ナルニア国物語あたりで白の女王はバサバサと失敗した幹部を処分していたので、どうも世界共通のようです。いや、むしろあちらから渡ってきたのでしょうか?

ある程度の才能を持って幹部に昇進した者を1度や2度の失敗で処分してしまうのは戦力を落とすだけで何一ついいことがない。それがわからないから仲間を大切にする正義の側に、最終的には負けてしまうのだ。

なーんて心の中でツッコミを入れて終わっていたんだけど、悪には悪の理屈があるので、そうすることによって何らかのメリットがあるのではないか、と考え直して直してみました。

なるほどと思えるようになったのは『韓非子』を読んでからです。つまり、悪の組織では恐ろしいくらいの実力主義成果主義で動いているわけです。韓非子には、こうあります。

王様は自分では何もせず、すべて部下に任せろ。部下が失敗すれば部下の責任にして罰を与え、部下が成功すればその手柄だけ取り上げる。

なんとも極悪ですね。悪の組織のボスにはふさわしい。しかし、こんなことをしては部下は動いてくれないので、成功すれば報酬がもらえるように表面上はしておきます。なんだ、成功すれば、それに見合った高い報酬がもらえるじゃん。部下にそう思わせることができれば成功です。しかし、何もかもが成功すると、いずれは地位も名誉も財産も、部下のほうがボスを上回る時が来ます。これでは立場が逆転してしまいます。これを防ぐには、どこかで取り上げなければいけません。ですから、悪のボスとしては部下が失敗するまで厳しいノルマを課します。

どうにもひどい話ですが、こういうゲームは普通に存在します。例えばクイズミリオネアがそうでしょう。クイズに正解し、賞金は500万円まで行くと、目の前に1,000万円の小切手が出てきます。あと1問でこれが手に入る。しかし勝負から降りれば100万円しか残らない。あの番組は無理難題に挑戦して破滅する様を見て楽しむものですね。失敗する姿を見て「ざまぁみろ」と思った方、あなたは立派な悪の組織の末端構成員です(笑)進むか戻るかは人それぞれですが、周囲の空気はそれを許しませんね。それがもっと極端になった世界、いわば天井知らずのミリオネア、これが悪の組織です。

悪の組織は欲望によってドライブされています。欲望の持つ力を最大限に引き出して勢力拡大へのエネルギーにするのが悪のボスです。こういう社会では、同僚が困っていても助けることありません。むしろ分不相応な地位を望んで(身の丈よりもきついノルマを与えられて)しまったことが悪いと相手のせいにします。悪の組織には厳格な秩序があります。そう、正義の組織より悪の組織の方がルールは徹底されているのです。なぜなら正しい人事評価ができない限りは実力主義が機能しないのです。なので、必ず役職にはそれに見合った褒美と課題が与えられます。ボスが適切な課題を与えたのに、それを達成できなかったという事は失敗した奴が悪いのです。みんなの前でその課題をクリアしてみせると大見得を切った以上弁解の余地はありません。ですから、仲間が失敗したときは大喜びです。処分されれば、チャンスが自分に回ってくるからです。悪の組織で幹部同士の仲が悪いのはこういう理由です。ライバルが失敗や失脚をして、これがチャンスと喜んでいる方、あなたは立派な悪の組織の中堅構成員です(笑)

つまり、悪の組織では失敗した幹部を処分することはボスにとっても利益になるし、同僚や部下にとっても利益になるのです。皆が処分を期待しているのに処分しなければ、それこそボスが責任を問われます。悪の組織では失敗した暗部は処分されなければならないのです。

(これが通用するのは、人余りで競争が激しい場合に限ります。悪の組織は競争がなくならないように気の小さい人間をあの手この手で勧誘します。)