第四十八章 学を為せば日々に益し、道を為せば日々に損ず。

原文

爲學日益、爲道日損。損之又損、以至於無爲。無爲而無不爲。
取天下、常以無事。及其有事、不足以取天下。

訓み下し文

(がく)()せば日々(ひにひ)()し、(みち)()せば日々(ひにひ)(そん)ず。(これ)(そん)じて(また)(そん)じ、(もっ)無為(むい)(いた)る。無為(むい)にして(しか)()さざるは()し。

天下(てんか)()るは、(つね)(こと)()きを(もっ)てす。()(こと)()るに(およ)んでは、(もっ)天下(てんか)()()らざる。

解釈

勉強すれば成果が上がる。道を行けば損をする。損して損して最後には何もできなくなる。だが、なにもしないことで何も成し遂げないわけではない。

天下を取るには必ず事をおこさないことだ。事に及ぼうとするようでは、まだまだ天下を取る力などない。

備考

向上心を持って修練を行い、誰よりも知識を積み重ねた者が人々を教え導き、尊敬されるべき王として天下を支配する。

ごく当たり前のように思えるが、老子はそれではダメだと言う。

たとえ修練で天下を取ったとしても、自分が積極的に介入しなければ支配者の地位を維持できないようでは、力が衰えた時に地位を他者に奪われてしまう。
真の天下人とは何もしなくても周囲から盛り立てられて王位に就く者なのだ。天下は努力を積み重ねて取るものではなく、当たり前のように、取るべくして取るものだ。努力して取ってるようでは、まだまだ二流なんである。
真に天下を取る者は、自分が損してでも他人に利益を与えるような行いで、周囲をおだてあげ、他人を上手に動かして自分では何もしないものだと教えている。

よく名選手だからといって名監督になれるわけではないと言われるが、この章でも学ぶ力と教える力は違うことを言っているのであろう。

学問とは自分のためにする利己的なものだ。学んで常に得するのは自分である。その利益は学者本人が手放さない限り世の中に還元されることはない。それを人の為に使ってこそ天下は近づく。学ぶだけでは意味がない。学んだものをどれだけ人に還元できるか。その利他があってこそ天下は寄ってくるのだ。
このような解釈では愚民政策と矛盾してしまうが、案外ここでは学ぶことを禁じてはいない。現実的な処世術としては、学んでも損をすればいいんではないか。

ヒント


無事(ぶじ)

仕事をしないこと。
何事も問題がおきないことのようにも思えるが、文脈からはそういう意味で使ってない。

無爲(むい)

何もしないこと。
本当に何もしないわけではなく、一見しただけでは理解出来ない行為をして、黙っていること。

無為のこころ


(ガク)

学ぶ。勉強する。

熟語(3種/5回)

天下 無事 無爲

ルビ無版下し文(コピペ用)

学を為せば日々に益し、道を為せば日々に損ず。之を損じて又損じ、以て無為に至る。無為にして而も為さざるは無し。

天下を取るは、常に事無きを以てす。其の事有るに及んでは、以て天下を取る足らざる。