第六十一章 大国の者は下流なり。

原文

大國者下流。天下之交、天下之牝。牝常以靜勝牡。以靜爲下。
故大國以下小國、則取小國。小國以下大國、則取大國。
故或下以取、或下而取。大國不過欲兼畜人、小國不過欲入事人。
夫兩者、各得其所欲、大者宜爲下。

訓み下し文

大国(たいこく)(もの)下流(かりゅう)なり。天下(てんか)(こう)なり、天下(てんか)(ひん)なり。(ひん)(つね)(せい)(もっ)()()つ。(せい)(もっ)(くだ)るを()すなり。
(ゆえ)大国(たいこく)(もっ)小国(しょうこく)(くだ)れば、(すなわ)小国(しょうこく)()り、小国(しょうこく)(もっ)大国(たいこく)(くだ)れば、(すなわ)大国(たいこく)()る。
(ゆえ)(ある)いは(くだ)りて()り、(ある)いは(くだ)りて(しか)して()る。大国(たいこく)()ねて(ひと)(やしな)わんと(ほっ)するに()ぎず、小国(しょうこく)()りて(ひと)(つか)えんと(ほっ)するに()ぎず。
()両者(りょうしゃ)(おの)おの(その)(ほっ)する(ところ)()んとすれば、(だい)なる(もの)(よろ)しく(くだ)ることを()すべし。

解釈

国同士の付き合いでは川下に回る方が大国だ。天下の合流点であり、天下を引き受けるものだ。女は静かさでは常に男に勝つ。そして、静かに下がって行動する。

だから、大国は小国にへりくだることで、小国を取る。また、小国は大国の下に回ることで、大国の支援を得ることができる。
つまり、一方はへりくだることで国ごと取り、一方は配下になることで庇護を得る。大国は迎え入れて相手を養うだけでよい。小国は入っていって相手を助けるだけでよい。
それだけでどちらも必要なものが手に入る。大物こそ、へりくだった態度で挨拶するとよい。

備考

エッチな話?下で仰向けに寝転がってるだけで男に勝つとか。いつも負けっぱなしな人にはギクリとする解釈になったりして。

冗談はさておき。まぁ男女の交わりで考えてもいいんだけど、生活態度でもいいんではないか。女のほうがおしとやかで亭主より一歩引いたところにいて、よく世話をする。男は外で動きまわって働く。
男は女を養うだけであり、女は嫁に入って家を支えるだけである。そして、男は女の家に頭を下げに行く。

もっとも、付き合いってのは、信頼関係がすべてだから、どこかでボタンを掛け違うと何もかもが上手くいかないだろうけどね。不信に陥った両者にこんな提案は少しお人好しすぎると思う。国同士の付き合いならなおさら。
しかし、拮抗状態の膠着を打破できるのは頭を下げるのが一番早く、大物ほどそれを許せる度量を持ち得やすい。面倒見の良い者が頭を下げるんだから、慕われないわけがない。

大國者下流
第六十六章では、海は一番低い場所にあるから、川の王者だとある。

牝常以靜勝牡
第二十六章では、「靜爲躁君」とあり、第四十五章では、「靜勝熱」とある。

故或下以取、或下而取。
お互い下ることで、取ることもあれば、取られるところもある。

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熟語(4種/12回)

天下 大國 小國 兩者

ルビ無版下し文(コピペ用)

大国の者は下流なり。天下の交なり、天下の牝なり。牝は常に静を以て牡に勝つ。静を以て下るを為すなり。
故に大国以て小国に下れば、則ち小国を取り、小国以て大国に下れば、則ち大国を取る。
故に或いは下りて取り、或いは下りて而して取る。大国は兼ねて人を畜わんと欲するに過ぎず、小国は入りて人に事えんと欲するに過ぎず。
夫れ両者、各おの其欲する所を得んとすれば、大なる者宜しく下ることを為すべし。