道徳経
原文 孔徳之容、唯道是従。道之為物、唯恍唯惚。 惚兮恍兮、其中有象。恍兮惚兮、其中有物。 窈兮冥兮、其中有精。其精甚眞、其中有信。 自古及今、其名不去。以閲衆甫。 吾何以知衆甫之状哉、以此。 訓み下し文 孔徳(こうとく)の容(すがた)、唯(ただ)道(み…
原文 絶学無憂。 唯之與阿、相去幾何。善之與惡、相去何若。 人之所畏、不可不畏、荒兮其未央哉。 衆人熈熈、如享太牢、如春登臺。 我獨泊兮其未兆。如嬰兒之未孩、儡儡兮若無所歸。 衆人皆有餘、而我獨若遺。我愚人之心也哉、沌沌兮。 俗人昭昭、我獨昏昏、…
原文 絶聖棄智、民利百倍。絶仁棄義、民復孝慈。絶巧棄利、盗賊無有。 此三者、以為文不足。故令有所屬。 見素抱樸、少私寡欲。 訓み下し文 聖(せい)を絶(た)ち智(ち)を棄(す)てれば、民(たみ)の利(り)は百倍(ひゃくばい)す。仁(じん)を絶(た)ち義(ぎ)を棄(…
原文 大道廢、有仁義。智慧出、有大僞。六親不和、有孝慈。國家昏亂、有貞臣。 訓み下し文 大道(たいどう)廃(すた)れて仁義(じんぎ)有(あ)り。智慧(ちえ)出(い)でて大偽(たいぎ)有(あ)り。 六親(ろくしん)和(わ)せずして孝慈(こうじ)有(あ)り。国家(こっか)…
原文 太上下知有之。其次親而譽之。其次畏之。其次侮之。 信不足、焉有不信。 悠兮其貴言、功成事遂、百姓皆謂我自然。 訓み下し文 太上(だいじょう)は下(しも)之(これ)有(あ)るを知(し)るのみ。其(そ)の次(つぎ)は親(した)しみて之(これ)を誉(ほ)む。其(そ)…
原文 致虚極、守靜篤、萬物竝作、吾以觀復。夫物芸芸、各歸其根。 歸根曰靜、是謂復命。復命曰常、知常曰明。不知常、妄作凶。 知常容。容乃公、公乃王、王乃天、天乃道、道乃久。沒身不殆。 訓み下し文 虚(きょ)に到(いた)ること極(きわ)まり、静(せい)を守…
原文 古之善爲士者、微妙玄通、深不可識。夫唯不可識、故強爲之容。 豫兮若冬渉川。猶兮若畏四隣。 儼兮其若客。渙兮其若冰之將釋。 敦兮其若樸。曠兮其若谷。混兮其若濁。 孰能濁以靜之徐清。孰能安以動之徐生。 保此道者、不欲盈。夫唯不盈、故能蔽不新成…
原文 視之不見、名曰夷。聽之不聞、名曰希。摶之不得、名曰微。 此三者、不可致詰。故混而爲一。 其上不蕤、其下不昧。繩繩不可名、復歸於無物。 是謂無状之状、無物之象。是謂惚恍。迎之不見其首、隨之不見其後。 執古之道、以御今之有、能知古始。是謂道紀…
原文 寵辱若驚。貴大患若身。 何謂寵辱若驚。寵爲上、辱爲下。得之若驚、失之若驚。是謂寵辱若驚。 何謂貴大患若身。吾所以有大患者、爲吾有身。及吾無身、吾有何患。 故貴以身爲天下、若可寄天下。愛以身爲天下、若可託天下。 訓み下し文 寵辱(ちょうじょく…
原文 五色令人目盲。五音令人耳聾。五味令人口爽。 馳騁田獵、令人心發狂。難得之貨、令人行妨。 是以聖人、爲腹不爲目。故去彼取此。 訓み下し文 五色(ごしき)は人(ひと)の目(め)をして盲(もう)なら令(し)む。五音(ごいん)は人(ひと)の耳(みみ)をして聾(ろ…
原文 三十輻共一轂。當其無、有車之用。 挺埴以爲器。當其無、有器之用。 鑿戸牖以爲室。當其無、有室之用。 故有之以爲利、無之以爲用。 訓み下し文 三十(さんじゅう)の輻(ふく)、一(ひと)つの轂(こしき)を共(とも)にす。其(そ)の無(む)に当(あた)って、車(…
原文 載營魄抱一、能無離乎。專氣致柔、能嬰兒乎。滌除玄覽、能無疵乎。 愛民治國、能無知乎。天門開闔、能爲雌乎。明白四達、能無知乎。 生之畜之、生而不有、爲而不恃、長而不宰。是謂玄徳。 訓み下し文 営魄(えいはく)を載(の)せ、一(いち)を抱(いだ)きて…
原文 持而盈之、不如其已。揣而鋭之、不可長保。金玉滿堂、莫之能守。富貴而驕、自遺其咎。 功成名遂身退、天之道。 訓み下し文 持(じ)して之(これ)を盈(み)たすは、其(そ)の已(や)むに如(し)かず。 揣(きた)えて之(これ)を鋭(するど)くするは、長(なが)く保…
原文 上善若水。水善利萬物而不爭。處衆人之所惡。故幾於道。 居善地、心善淵、與善仁、言善信、正善治、事善能、動善時。 夫唯不爭、故無尤。 訓み下し文 上善(じょうぜん)は水(みず)の若(ごと)し。水(みず)は善(よ)く万物(ばんぶつ)を利(り)しても争(あら…
原文 天長地久。天地所以能長且久者、以其不自生、故能長生。 是以聖人、後其身而身先、外其身而身存。非以其無私耶、故能成其私。 訓み下し文 天(てん)は長(なが)く地(ち)は久(ひさ)し。天地(てんち)の能(よ)く長(なが)く且(かつ)久(ひさ)しき所以(ゆえん)…
原文 谷神不死、是謂玄牝。 玄牝之門、是謂天地根。綿綿若存、用之不勤。 訓み下し文 谷神(こくしん)は死(し)せず、是(これ)を玄牝(げんぴん)と謂(い)う。 玄牝(げんぴん)の門(もん)、是(これ)を天地(てんち)の根(ね)と謂(い)う。 綿綿(めんめん)として存(そ…
原文 天地不仁、以萬物爲芻狗。聖人不仁、以百姓爲芻狗。 天地之間、其猶槖籥乎。虚而不屈、動而愈出。 多言數窮、不如守中。 訓み下し文 天地(てんち)は仁(じん)ならず、万物(ばんぶつ)を以(もっ)て芻狗(すうく)と為(な)す。聖人(せいじん)は仁(じん)ならず…
原文 道冲而用之或不盈。淵兮似萬物之宗。 挫其鋭、解其紛、和其光、同其塵。 湛兮似或存。吾不知誰之子、象帝之先。 訓み下し文 道(みち)は冲(むな)しくして、之(これ)を用(もち)うれば或(ある)いは盈(み)たず。淵(えん)として万物(ばんぶつ)の宗(そう)たる…
原文 不尚賢、使民不爭。不貴難得之貨、使民不爲盜。不見可欲、使心不亂。 是以聖人之治、虚其心、實其腹、弱其志、強其骨。 常使民無知無欲、使夫知者不敢爲也。 爲無爲、則無不治。 訓み下し文 賢(けん)を尚(たっと)ばざれば、民(たみ)をして争(あらそ)わ…
原文 天下、皆知美之爲美、斯惡已。皆知善之爲善、斯不善已。 故有無相生、難易相成、長短相形、高下相傾、音聲相和、前後相隨。 是以聖人、處無爲之事、行不言之教。 萬物作焉而不辭、生而不有、爲而不恃、功成而不居。 夫唯不居。是以不去。 訓み下し文 天…
原文 道可道非常道。名可名非非常名。無名天地之始。有名萬物之母。 故常無欲以觀其妙。常有欲以觀其徼。 此兩者。同出而異名。 同謂之玄。玄之又玄。衆妙之門。 訓み下し文 道(みち)の道(みち)とす可(べ)きは常(つね)の道(みち)に非(あら)ず。名(な)の名(な…
モノづくりのヒント 解説 第二章萬物作焉而不辭、生而不有、爲而不恃、功成而不居。 仕事を始めても何も言わず、根回しが終わっても成果有りとせず、達成しても見返りも求めず、周囲が成功したと認めても居座ったりしない。 関係する章
道者の天下取り 解説 聖人とは天下をよく治める人である。かつて、道を極めた聖人が天下を治めたのなら、道を行くことは天下を取ることを意味する。道は無為だと言ってみたところで、結局は天下が転がり込んでくるわけだから、どうやって天下を取るかも書い…
悲しくなったとき-道者のつよがり 解説 人は誰でも気持ちが揺れ動く。時には悲しい方向に。特に道を行くことは常に損をすることである。報われない人生に嫌気がさしても不思議ではない。そんな道者たちのために、自分の気持ちを慰める話しも用意されている。…
明-浅はかな智慧と絶対的な智慧 解説 老子は随所で無知であれと言っている。では、本当に何も知らないでいいのかといえば、そうでもない。一体、何を知るべきで、何を知るべきでないのか。まず、知るとは何か。第三十三章に、「人を知るのが智」とある。これ…
人を信じる 解説 老子は性善説と言われる。愚民政策を提唱するような人が性善説なのかと引っかかるところはあるが、要所で「信じる」「信じないと信じられない」と言っているのだから、人を信じることを是とすることに間違いはない。念のため箇条書きでまと…
徳について 解説 道徳経の名が示す通り、徳は道に続いて重要な概念だ。特に関連する章をピックアップして徳の姿をさぐってみた。 徳とは一般的には人の奥ゆかしい心や行いをいう。これらの徳は徳者のふるまいを例にあげれば、日常で見ていることもあってすぐ…
無名の樸 解説 樸という字は六回登場する。特に無名の樸として、とらえどころのない存在として描かれる。まず、樸は文字としては「切り倒したばかりの木の丸太」の意味を持つ。「名」は固有名詞を付けて違いを認識できるようになったものであるから、「無名…
道者が争うとき-不争の徳 解説 不争という言葉は七つの章に登場する。つまり、争いを避けることは老子の教えの中でも重要な位置を占める。そこで、なぜ争ってはいけないのか、そのメリットとデメリットをまとめた。その結果、道者は必ずしも不戦を貫く平和主…
専門用語 解説 老子には独自の世界観があり、それを説明するために、たくさんの造語・専門用語がある。大抵は是謂や、是所謂で語られるが、各章に散らばっていたり、微妙に言い回しが違ったりと、初見では全容を掴みづらい。そこで、それらをここに集めてみ…